STORY 03
四代目・森 議夫の挑戦 〜平成から令和へ〜
託したのは会社と歴史、そして道半ばの商品開発ですが、三代目が四代目に伝えたのは、そのどれでもない「人との繋がりを大切にせよ」の一言でした。
伝統に拠って立つことを良しとせず、新しい世界への扉を叩き続けた三代目。しかしその心はいつも、長い商いを通じて築かれたご縁、そして新たに商品を手にされるお客様へと向けられていました。
会社の継承を打診された長男の議夫は、四代目を継ぐかどうかは脇に置き、ひとまず東京から帰郷します。小さい頃から感じていた「いつか家業を継ぐ立場」というプレッシャーを振り払い、関東に本社がある玩具会社に入社。流行商品が人を動かす力学や、サービスと利益を織り交ぜる営業バランスなど、業界は違えど、商売を学ぶ日々を送っていました。
和装業界には懐疑的だった議夫ですが、『つや肌』を始め新商品づくりに挑み続ける会社の姿勢に、森博多織の未来を感じます。そこには、過去を守るだけの仕事ではなく、未来に向かって取り組む仕事がありました。「ここなら新しいことにチャレンジできる。やるしかない!」覚悟は決まり、三代目の下で経験を積む日々が始まります。『つや肌』の存在が議夫の心を動かしたのです。
平成30(2018)年、森博多織は四代目・議夫へと引き継がれました。四代目が新たなテーマに据えたのは、博多織の伝統に頼らず、絹の機能で勝負することでした。
長らく新製品の開発に取り組んできた森博多織ですが、商品の主力は未だ和装。献上柄で有名な博多織のブランドは新商品を後押しする力になりますが、同時にイメージが固定され、市場を限定してしまいます。そこで考えたのが、献上柄も博多織も前面に出さない「機能」での勝負だったのです。
三代目が開発した絹の新商品。お客様には、使って気に入っていただいた後に「博多織だったのか!」と気付いてもらえればいい。そこまで思い切り、四代目は伝統ブランドからの脱却を図ります。新商品にも多用していた古典的な和装デザインを刷新し、OEMを脱却して森博多織らしいオリジナル商品を育てていく…。
そんな試行錯誤を始めた矢先、全世界を襲ったコロナウイルスの感染拡大により、構想のすべてが一時停止状態に陥ります。四代目を継いで僅か1年でした。
コロナ禍以降、否応なく人々のライフスタイルが変わりました。その影響はあらゆる業種に及んでいます。しかし、そんななかでも四代目は、歩みを止めていません。絹製品ならではの肌に優しい抗菌冷感マスクの開発や、『つや肌』を超える機能性タオルの検証環境づくりなど、コロナ禍の次の世界へ向けて進んでいます。
時代変化のピンチはチャンス。創業者・竹次郎の声が聞こえてくるようです。